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トップページ > データバンク > 【第一回意識調査】被雇用者側から見た株式上場
企業の株式の上場については、通常、創業者および大株主の立場から企業の上場の持つ意義やそのメリット・デメリットについて捉えるのが一般的な傾向だが、ここでは特定の企業の従業員ではなく、より広範に、企業に雇用される側、即ち被雇用者の側から、企業の株式上場をどう捉えているかという意識に関するアンケート調査の結果がまとまったので、貴重なデータとしてここに掲載し、株式上場選択のための一つの判断の材料としていただきたい。
IPO総合研究所 会長 森田 弘昭
今回のアンケートの対象は、上に述べたように特定の企業の従業員に対するものではなく、広く上場会社および非上場会社の従業員を対象とし、業種、職種、さらに役職も多岐に渡る。また、非正規社員もこの対象とし、同様にその意識を募った。(アンケートの対象・その属性等については巻末に掲載)
知らないと答えた人は、全体の5%にあたる19名であるが、そのうちアルバイトが7名と最も多い。
また、アンケート回答者の約11%を占める非正規雇用社員(派遣社員)には「知らない」と答えた人はいなかった。
「上場企業を転職対象として選びたい」とする人が全体の3分の1弱を占めるが、「こだわらない」とする回答がその倍、60%強を占めている。反対に、「非上場企業が良い」と答えた人は全体の約7%と少数に留まっていることから、上場企業と非上場企業における印象の差が見て取れる。
なお、6割強を占めた「こだわらない」という回答だが、ここには就職状況の困難さという世情が含まれていることが推察できる。
現在上場企業に勤務しているという回答者に絞って見てみると、「転職するとしたら上場企業を選ぶ」とする回答が52.1%を占め、全体の傾向と比べてはるかに高い数字であった。当然の結果ともいえるが、上場企業に勤めていることによる種々のメリットを実感した結果と言えるだろう。
反対に、現在非上場企業に勤務している人の21.5%が、転職先は上場企業にしたいと考えており、全体での31.5%を大きく下回る結果であった。
さらに、年代・性別にわけて集計した結果をみれば、全体的に「こだわらない」の回答が過半数を超える中で、20〜39歳の女性に関してのみ「上場企業」に勤務したいとする割合が最も大きく、半数近くに達している。
〜19歳 | 20〜39歳 | 40〜59歳 | 60歳〜 | |||||
女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | |
上場企業 | 0.0% | 50.0% | 47.9% | 28.3% | 25.7% | 20.7% | 0.0% | 0.0% |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
非上場企業 | 0.0% | 0.0% | 13.4% | 6.1% | 0.0% | 4.9% | 0.0% | 0.0% |
こだわらない | 100.0% | 50.0% | 38.7% | 65.7% | 74.3% | 74.4% | 100.0% | 100.0% |
上場企業を支持する20〜39歳の回答には、次のようなコメントがそえられている。
コメントからも読み取れるように、20〜39歳の女性は、会社を選択する際に、世間に与える企業の信用度であるとか企業のイメージを大切にし、上場企業という響きの持つプラスイメージを大事にしていることが推測できる。
全体 | 現在上場企業に 勤務している回答者 |
|
優良企業のイメージ | 48.6% | 46.3% |
---|---|---|
経営状態が明瞭 | 47.6% | 45.5% |
賞与、福利厚生、社会保障などがしっかり整備されている | 46.2% | 41.5% |
給料が高い | 31.0% | 31.7% |
職場環境が良い | 18.2% | 17.9% |
自分の社会的な信頼性が高まり、クレジット審査や住宅ローン審査が通りやすい | 13.6% | 15.4% |
仕事へのモチベーションが高まる | 12.5% | 16.2% |
自分の社会的な信頼性が高まり、キャリアアップの面で有利 | 12.0% | 13.9% |
自分の社会的な信頼性が高まり、結婚・恋愛・友人関係において有利 | 10.9% | 11.4% |
自社の株を簡単に売買できる | 2.2% | 2.4% |
その他 | 2.2% | 0.8% |
複数回答で上場企業のメリットを挙げてもらった結果が以上である。
株式の新規上場は非常に難しいものであるとの一般的な意識があるためか、最も回答の多かったのが「優良企業のイメージ」。外部から「上場企業は優良企業である」との対外評価が上場企業にとっての一番のメリットであり、これが企業にとって大いに役に立っているという意識があるのであろう。
次には「経営状態が明瞭である」、「賞与、福利厚生、社会保険などがしっかり整備されている」とあり、被雇用者として、安心して働ける環境に惹かれるという労働意識が表れている。
現在上場企業に勤務している回答者の意識と全体の傾向には、ほとんど差異が見られない。上場企業での勤務経験者も未経験者も、持つイメージに関しては同様であることがわかった。
全体としての回答は、「自社株を買わない」と答えた人はわずか21.2%。反対に、「利益が出そうなら短期的に買う」、「長期保有をしたい」が合わせて78.8%となり、全体の約8割が会社の株式に関心を持っていることを示している。
ただ、この設問に対する回答として、上場企業に勤務している回答者とその他の回答者とでは、回答の傾向が大きく異なっているのが特徴である。
現在上場企業に勤務している人の回答は「長期保有する」との回答が半数に達している。
これは、上場会社では殆どの会社で「従業員持株制度」が導入・利用されており、自社株保有が自身の財産の形成に効果的であるということを知った上での回答であろう。また、自社株の短期売買はインサイダー取引に抵触する恐れがあることも十分理解した上での回答であることが読み取れる。
その他の回答者について、「利益が出そうなら短期的に買う」という回答が多いが、これは「従業員持株制度」の存在を知らないという前提であり、制度の存在を知っていれば自社株の長期保有の回答はさらに伸びたものと思われる。
自分が社長だったら会社を「上場させたい」という回答が約半数に上った。
反対に、「上場させたくない」は15%強であり、会社の創業者あるいは経営者としては、上場にチャレンジしてみたいという気持ちが(この不況下においても)強いことを示している。
被雇用者の側からすれば、労働環境さえ良ければ上場・非上場にこだわりは持たないものの、経営者の立場なら別、という意識が読み取れるが、これには【上場のメリット】の項目(IV)で現れているように、上場企業のメリットが多いという意識も含まれていると推察できる。
「非上場の年商1000億円の企業」が51.6%という圧倒的な支持を受けた。
上場企業が社会的な評価や信用力の点、そこからくる資金調達や従業員の確保、知名度の高さから来る営業面での有利さなど、諸々のメリットを差し引き、非上場ながらも年商1000億円をあげるという企業のパワーが評価されたのだろう。
今回、アンケートに際し寄せられた意見の中に、
という現在の経済環境や証券市場の状況のなかで企業の株式上場をどう考えるかということを的確に捉えている意見があった。
これは今回のアンケートではないが、昭和58年に現在のジャスダック市場の基となる新店頭市場が開設された頃、某証券会社がその時期に新規上場した企業の従業員に対し「会社が上場して嬉しかったことは何ですか」というアンケートを取ったことがある。この回答として多かったのが「両親や妻など家族の者が会社の上場を喜んでくれたこと」である。
株式の上場についてその判断材料として、創業者や経営陣、株主の立場からだけではなく従業員やこれから新しく従業員となるであろう人間の立場などからも、広く見ていくことが必要であることをこのアンケートは物語っている。
以上
【業種】
製造 | 21.5% |
---|---|
卸売・小売 | 16.3% |
サービス・娯楽 | 14.4% |
情報通信 | 9.0% |
建設・不動産 | 7.3% |
金融・保険 | 6.5% |
医療・福祉 | 5.2% |
公務 | 3.8% |
教育 | 2.7% |
宿泊・飲食 | 2.2% |
農・林業・漁業 | 0.5% |
その他 | 10.3% |
未回答 | 10.3% |
【職種】
技術 | 29.6% |
---|---|
営業 | 15.2% |
販売 | 12.5% |
総務 | 11.4% |
経理 | 9.0% |
企画 | 6.5% |
経営企画 | 6.5% |
広報 | 4.1% |
人事 | 3.0% |
未回答 | 2.2% |
【役職】
平社員 | 38.3% |
---|---|
派遣 | 11.7% |
主任 | 9.8% |
アルバイト | 9.5% |
係長 | 7.1% |
課長 | 6.8% |
自営業 | 6.5% |
部長 | 5.4% |
その他 | 3.5% |
未回答 | 1.4% |